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深夜番組


――8月某日。如月邸。




家主の如月翡翠は、ちゃぶ台を前に涼しい顔で茶を啜る緋勇龍麻と、畳に転がる蓬莱寺京一、

そして申し訳なさそうにその巨漢を縮めている醍醐雄矢を見て溜め息を吐いた。――そりゃもう、あからさまに。

「……誰が、僕の家でお泊り合宿を開いて良いと言ったんだ?」

「俺」

「蓬莱寺。即答するとは殊勝な心掛けだが、君は僕の家の主じゃないだろう。主は、僕だ。よって、この件は僕に採択の権利がある」

「いいじゃねぇか、堅いことは言いっこなし。どうせ一人暮らしで困るヤツもいねぇんだから」

「僕が困るんだよ、僕が!いきなり押しかけて来られては客布団も用意できてないし、第一、僕は明日も店があるんだっ」

「……それはヤケに好意的な困惑の仕方のような気がするが」

ぼそりと、両膝を腕で抱えるように座った醍醐が呟くと、如月はそちらを鋭い視線で睨み付けた。

「醍醐君、それに緋勇君!大体、君達が付いていながらどうしてこんな無礼な行為を容認するんだ?

本来なら、とっくに君達が阻止してるはずだろう」

その質問には、信楽の湯飲みを目先に掲げながら緋勇がおっとりとした口調で答えた。

「だって、こうでもしないと勤労学生の如月とひと夏の思い出なんて作れないじゃないか。……いい色の焼き物だね、これ」

「信楽の傑作だからね、一応――……じゃなくて!ひと夏の思い出を君達と作る義務は僕にはないっ」

「え〜?僕は如月だって仲間なんだから、一緒に楽しく過ごしたいと思うんだけどなぁ。

如月は嫌?僕らと楽しく過ごしたいと思わない?」

ね、どうなの?と問うその黒色の瞳は、電灯の光を浴びてキラキラと輝いている。

細身だが身長だけなら蓬莱寺とどっこいどっこいの緋勇の、何処からそんな可愛らしさが発せられるのかというくらい、その姿は愛らしかった。

――少なくとも、如月に、彼の期待を裏切るようなことだけは言いたくない、と思わせる程度には。

「その訊き方は卑怯だよ、緋勇君…………」

がっくりと肩を落とす心優しく不幸な家主に、蓬莱寺と緋勇はガッツポーズを決め、醍醐は更にその身を小さくした。




「――ところで、質問があるのだけれど」

一度覚悟を決めれば、腐っても飛水流の末裔。何時までもグチグチとは言わない。

そんな如月は、緋勇の向かいに腰を下ろすとまっすぐに彼を見つめた。

「ひと夏の思い出って、具体的にはどんな思い出にするつもりなんだ?

今からでは何処かに出かける時間でもないし、花火だって近所迷惑になるだろう」

時計の針は午前零時。行動を起こすというよりはむしろ寝ろ、という時間帯だ。

如月の疑問に、蓬莱寺がTVのリモコンを弄びながら「バッカじゃねぇの」と言い放った。

「思い出ってのは、何か特別なことをしなきゃ出来ないってもんでもないだろ?

たとえば、こうやって、適当にチャンネルを合わせた番組について感想を言い合いながら夜更かしするってだけでも、思い出になるし」

そう言ってポン!とスイッチを入れた画面に映し出されたそれは、トーク番組。

司会者もゲストもお笑い芸人で構成されたそれは、ある意味捨て身の勝負を生業にしている出演者達らしい内容だった。

さすが、深夜枠の番組だけにエゲツナく、最近入籍したというゲスト側の女性芸人が、新郎との初夜の様子を赤裸々に語っている。

「…………これについて、何を語れと?」

渋面で真剣に悩む如月に、蓬莱寺は呆れたように醍醐に振った。

「だから、何でそこで悩むよ――タイショー、見本を見せてやれ」

「お、俺か?!」

「お前みたいな朴念仁でも対応可能なんだってところ証明してみせろって。――で、どんな感想を持ったんだ?」

「うっ……ええとだな、ああいうプライベートな秘め事をペラペラと喋る女性はどうかと思う」

「小蒔は、ペラペラどころかそこに辿り着くまでが長く険しい道だろうけどなっ」

「な――っ!京一、言って良いことと悪いことがあるぞっ」

がばっと立ち上がりかけた醍醐は無視して、今度は緋勇に顔を向ける。

「ひーちゃんは?」

「そうだなぁ。確かに彼女みたいなのはタイプじゃないけど……でも、積極的なのは嫌いじゃないな。何事にも前向き。結構だと思うよ」

「緋勇君、あれは前向きとは違うだろう」

「そういう如月はどうなんだよ」

如月の女性観――!

醍醐のそれより新鮮で意外性が高そうなお題に、一同の好奇心が一気に高まる。

如月はあっさり言ってのけた。

「修行の妨げになるようなそんな事、考えるはずがない」

「うわ、信じらんねぇ!醍醐より堅物じゃん。お前本当に十代の健全な性少年かよっ」

「青、だよ蓬莱寺」

「俺より堅物って失礼だな。そもそも京一、お前だって剣の道を目指す者なら、もう少し精神の鍛錬を積む必要が――――」




「――……でもさ。女性の代わりに男性を愛するのは武道でも見られる傾向だよね」




戦国時代然り、御山の修行然り。

湯飲みを傾けながらのんびりとした口調で平然と言う緋勇。

そして、にっこりと微笑みながら如月を見た。

「てことは、如月は男の方なら興味があるのかな?」

「な、な、な………………何を言い出すんだ、緋勇君!」

「ひーちゃん、そりゃちょっと冗談キツいぜ。……俺、今夜ここに泊まらないで帰ろっかなぁ」

「蓬莱寺まで、何気に誤解の片棒を担ぐんじゃないっ」

無の境地は何処へやら。耳まで赤くなりながら必死に打ち消す如月に、緋勇は悪びれもせず更に微笑んだ。




――ほら、これでひと夏の思い出が出来ただろ?




そんな不名誉な思い出は要らないよ……。

そう如月が呟いたのは、言うまでもない。



〜〜 fin 〜〜



あとがき:二作目の魔人でした。

何か、結構ありがちな雰囲気になってしまって……。練り込み足りなかったでしょうか。

ともあれ、ようやっと二作目です。魔人のお客様に楽しんでいただけたなら恐悦至極。


今回は、若者らしい下ネタに花を咲かせるメンバーなんてどうかと思いつつ、男主は、ツッコミ鋭い天然クンにしてみました。

京一なんかは、そのツッコミが好きなんじゃないかなぁ、なんて。

でも、この男主では、濃いエロトークなど出来るはずもなかったのでした(笑)。

ヌルい挙句に、何だかあれあれ?という方向に進んでしまってごめんなさいっ。



残りを数えるのも辛くなってきました……。

四月、一つも更新できなかったツケは、結構でかそうです。とほほ。


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